各地のおいしいものやクラフトの楽しい話を聞くならこの方!
『山陰旅行 クラフト+食めぐり』などの著書を持つ人気ライター・江澤香織さんが、
旅先で出会ったユニークなクラフトとその地にまつわるとっておきのワインをナビゲート。
さあ、新しい日本を発見する旅のはじまりです♪
鳥取 民藝の窯元と倉吉ワイナリー
鳥取県って一体何があるんですか?と聞かれることが多い。あちこち旅をしている人でも、鳥取だけまだ行ったことがないんです、と言われる。地味で目立たない県ナンバーワンかもしれない鳥取県。でも本当は、しれっと目立たないようなふりをして、いろいろ隠し持っている県だと私は思っています。
砂丘やカニなど、思い付く有名なものはいくつかありますが、鳥取に来て何よりも驚き、わっと心掴まれてしまったのは、魅力的な器の窯元がたくさんあることでした。一人で、または家族などで運営している小さな工房が多いですが、それぞれ個性的でありながら、芸術作品というほど尖ってはいなくて、日常に愛用しやすい、暮らしに寄り添う器を作る作り手が多いのです。
工房の片隅にずらりと並んでいた器たち(山根窯)
その理由として、鳥取県といえば、民藝運動の影響を色濃く受けた地域でもあります。そこに大きく関わっていたのが、民藝プロデューサーと呼ばれる鳥取県出身の医師、吉田璋也さん。お医者さんでありながら、抜群の美的センスを持った吉田さんは、今でいう空間デザイナー、アートディレクターのような存在で、衣食住にまつわる日常の生活道具を幅広くデザインしました。吉田さんがディレクションして新たな民藝の品々が生み出されたことは、新作民藝運動と呼ばれました。その活動の一つとして、鳥取市内に美しい民藝作品を鑑賞できる「鳥取民藝美術館」、民藝品を販売する「鳥取たくみ工芸店」、さらに民藝の器や道具を実際に使って料理を味わう「たくみ割烹」まで作ってしまったのです。店を訪ねてみると、山陰で作られる様々な民藝の器と出会うことができます。ここでお気に入りを見つけたら、実際に窯元を訪ねてみてはいかがでしょうか。
鳥取たくみ工芸店の店内の様子。器や工芸品がよりどりみどりです
窯元は、主に東部の山間に点在しています。例えば「クラフト館 岩井窯」は、まるで異国の瀟洒なお屋敷のような風情で、ここが本当に窯元なのかと驚きます。器もメキシコやスペインを思わせる無国籍なデザインです。「因州 中井窯」は3色の掛け分けの皿が代表作。プロダクトデザイナーの柳宗理がディレクションした器もあり、モダンな印象です。「牧谷窯」は練り込みという複雑な技法を使い、ここにしかない、独特の縞模様が特徴的。どの器もオリジナリティに溢れ、和洋をあまり問わずテーブルに馴染み、空間を楽しくしてくれる器です。
緑に囲まれた岩井窯。資料館や喫茶もあり、時間をかけてゆっくり楽しめます
中井窯の器たち。作っても作っても追いつかないほど大人気だそうです
牧谷窯。シマシマ模様が可愛らしい。実際は大変手間のかかる緻密な作業です
さて、いい器があると、いいお酒が飲みたくなりますが(⁈)、私が最近鳥取で訪ねた興味深いワイナリーは、倉吉ワイナリーです。50歳で脱サラしてぶどう畑を始めたというユニークな経歴のオーナー。鳥取県の北栄町という地域は昼夜の寒暖差が大きく、日本海のミネラルを多く含んだ水はけの良い砂地。そして4月から9月は山梨に匹敵するほど日照時間が長く、実はワイン用ぶどうの栽培に適した環境なんだとか。昨年までは委託醸造でワインを造っていたのですが、10年目で還暦を迎えたオーナーが、なんと2018年度からいよいよ自身でワイン造りに挑戦!倉吉は、白壁土蔵の情緒ある古い街並みが魅力の観光地で、その一角にある町家を改装し、醸造所にしてしまいました。私が訪ねたときは、まだ改装途中でしたが、ガラス越しにタンクを眺めてワインを飲めるバースペースも作っています。まだまだ若いワイナリーですが、オーナーの情熱は本物。次に訪ねたときは、ここでワインを飲むのがとても楽しみです。
倉吉ワイナリー。ずらりと並んだ醸造タンクをガラス越しに眺めることができます
写真・文 江澤香織
鳥取民藝美術館・鳥取たくみ工芸店
クラフト館 岩井窯
因州 中井窯
倉吉ワイナリー
江澤香織
フード、クラフト、トラベル等を中心に活動するライター&エディター。ワイン大好きで、ワイナリーも多く巡っている。著書「山陰旅行 クラフト+食めぐり」(マイナビ)、「青森・函館めぐり―クラフト・建築・おいしいもの」(ダイヤモンド社)、「酔い子の旅のしおり」(マイナビ)等。
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