各地のおいしいものやクラフトの楽しい話を聞くならこの方!
『山陰旅行 クラフト+食めぐり』などの著書を持つ人気ライター・江澤香織さんが、旅先で出会ったユニークなクラフトとその地にまつわるとっておきのワインをナビゲート。
さあ、新しい日本を発見する旅のはじまりです♪
栃木 益子焼とココ・ファーム・ワイナリー
栃木県の代表的な手仕事といえば、益子焼です。真岡鐵道の益子駅を降りて少し歩くと、両サイドに益子焼の店が点々と並んでいて、ぷらぷら散歩するのが楽しい。器好きなら一度は訪ねたいスポットです。
毎年春のゴールデンウィークと秋の11月3日前後には、「益子陶器市」が開催され、多くの人で賑わいます。ぎっしりと屋台が並び、作り手自身がブースを出して器を販売していることも。最新作を手に取って見ることができたり、作家と直接おしゃべりしたりできるのが、陶器市ならではのお楽しみです。ただし、大変混み合うので、人気作家は争奪戦!お目当ての器は早く行かないと売り切れてしまうこともあります。落ち着いてゆっくり器を見たいなら、あえて陶器市以外の時に行くのもおすすめです。
益子焼は普段使いできる日常の器が多いので、気軽に生活に取り入れられることが魅力。若手作家も多く、作風も多種多様で、現在400名を超える陶芸家が作品作りに勤しんでいるそうです。
益子最大の販売所「益子焼窯元共販センター」のシンボルといえば、全長10m弱の巨大たぬき。
店で見かけたクラシカルなデザインの益子焼。(ちなみに私の個人的お気に入り店は「民芸店ましこ」「starnet」「pejite」など)
益子焼の歴史を辿ると、奈良朝時代と推察される窯趾(ようし)がこの地域で見つかっているようですが、その後の史実は明らかではありません。益子焼としての確かな起源は、江戸時代末期頃からといわれています。
茨城県の笠間で陶芸の技術を学んだ大塚啓三郎という人物が益子へやって来て、1853(嘉永6)年に地元の土で焼き物作りを始めました。他の有名な器の産地と比べると、歴史的にはやや新しいですが、益子焼の名が世の中に知れ渡ったのは、人間国宝で、民藝運動の主要メンバーでもある陶芸家、濱田庄司の存在が大きいようです。
濱田は益子に工房を構え、花器・茶器などの作品を制作する傍ら、町内の他の窯元を精力的に見て回り、制作や販売の指導を行っていたそうです。「濱田庄司記念益子参考館」には、濱田の作品や世界各地の蒐集品などが展示されていて見応えがあります(建物もすごく良いです)。濱田に影響を受け、益子という土地柄を大切に、志高く制作に打ち込んだ陶工たちの努力により、益子焼は高い評価を得て、海外にまで広まるようになりました。1979年には通商産業省(現、経済産業省)より、伝統的工芸品に指定されています。
ココ・ファーム・ワイナリー。1950年代より開墾された葡萄畑は、平均斜度38度というなかなかの急斜面!
同じく栃木県の足利でココ・ファーム・ワイナリーを訪ねた時、驚いたことに醸造所内で益子焼を目にしました。木樽やステンレスタンクの並ぶ貯蔵スペースの一角に、ひょっこりと陶器の壺が3つ。聞いてみると、ワイン発祥の地ジョージアのクヴェヴリのような古代製法で、ワインを試作中とのこと。益子焼の壺を陶芸家に作ってもらったそうです。同じ土地の焼き物とぶどうで醸したワインは、一体どんな味になるのでしょうか?
農作業を大事に、できるだけ丁寧に、自然な製法でワインを造るココ・ファーム・ワイナリーですが、自由な発想で新しい試みにもどんどんチャレンジしています。オープンなワイナリーなので、テイスティングやワイナリー見学は誰でも気軽に参加でき、敷地内にはショップやカフェもあります。なんといっても目の前に広がる葡萄畑を眺めながら飲むワインは格別!本当に気持ちのいい場所なので、一日かけてゆっくり過ごしたいワイナリーです。
益子焼の壺でワインを熟成。私が訪ねた時はまだ試行錯誤中とのことでしたが、いつか完成を楽しみに!
ワイナリーにはテイスティングコーナーもあり。5種類を飲み比べできました。
撮影:ココ・ファーム・ワイナリー
写真・文 江澤香織
江澤香織
フード、クラフト、トラベル等を中心に活動するライター&エディター。ワイン大好きで、ワイナリーも多く巡っている。著書「山陰旅行 クラフト+食めぐり」(マイナビ)、「青森・函館めぐり―クラフト・建築・おいしいもの」(ダイヤモンド社)、「酔い子の旅のしおり」(マイナビ)等。
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