手仕事とワインで旅するニッポン vol.3 大分

各地のおいしいものやクラフトの楽しい話を聞くならこの方!

『山陰旅行 クラフト+食めぐり』などの著書を持つ人気ライター・江澤香織さんが、旅先で出会ったユニークなクラフトとその地にまつわるとっておきのワインをナビゲート。

さあ、新しい日本を発見する旅のはじまりです♪


大分県 小鹿田焼と安心院葡萄酒工房

深い山の奥へ奥へと進み、ようやくたどり着いた、小鹿田焼(おんたやき)の里。斜面に寄り添うようにひっそりと、工房が建ち並んでいます。しんと静まる森に囲まれ、聞こえてくるのは、ギィー、ゴトン、ゴトン、とゆっくり響く唐臼と、さらさら流れる川の音だけ。ここでいう唐臼とは、ししおどしのように、受け皿に川の水が貯まる反動で杵が動き、陶土を砕く、自然の力を利用した仕組み。今はもう他では見ることのできない、日本の原風景です。皿山と呼ばれるこの地区は、重要文化的景観として選定されています。

水の流れを利用して唐臼が動き、陶土が粉々に砕かれていきます。


小鹿田焼が始まったのは江戸時代の中期。福岡県の小石原から招かれた陶工より技法が伝わったといわれ、現存する小石原焼(こいしわらやき)とは兄弟のような窯元です。昭和初期には民藝運動の第一人者、柳宗悦がこの地を訪ね、さらにイギリス人陶芸家・バーナード・リーチが滞在して作陶したことで、日本はもちろん、海外にも広まっていきました。現在は10軒の窯元があり、その一つである坂本工窯で、陶工の坂本創さんに器作りを実演していただきました。DJがリズムを取るかのような軽やかな仕草で、ろくろを足で蹴りながら素早く回したかと思うと、みるみるうちに形が出来上がり、まるで魔法を見ているようです。

淡々と手際よく作業する坂本さん。


飛び鉋(かんな)、刷毛目(はけめ)、櫛描きなどと呼ばれる、道具を使った独特の美しい模様が、小鹿田焼の特徴。例えば飛び鉋は、ろくろを回しながら、細く平たくしなるヘラのような金属を、レコード針のようなイメージで、かたち作られた粘土の表面に当て、微かな引っ掛かりの連続で模様を付けていきます。刷毛目の場合は、ペンキを塗るような平たい大きな刷毛で、表面部分を小刻みにトントントンと押さえることで、模様が現れます。しかし、これらはそもそも模様として考えられたものではなく、焼いたときに器が縮むと化粧土が剥がれやすいことから、道具で押さえて剥がれにくくするためのものだったそうです。必要性から生まれた技法だなんて、と驚いてしまうほど見事なデザインです。代々長子相続で伝わり、1995(平成7)年には国の重要無形文化財に指定されました。

刷毛目で模様付けられた、焼成前の大皿。手作業の微妙な揺らぎが味わい深い。


出来上がった器がずらり。


2017年7月には、九州北部豪雨により、44基ある唐臼の6割以上が崩れるという、壊滅的な被害を受けました。現在は復旧されているそうですが、現地の状況等詳細は、小鹿田焼の里HPに記されています。

緑に囲まれた安心院ワイナリー。


小鹿田焼のある大分県にもいくつかワイナリーがあり、私が訪ねたのは安心院(あじむ)ワイナリー。いいちこで有名な三和酒類株式会社が母体です。実はワイン造りの歴史は古く、1971(昭和46)年よりワイナリーがスタートしています。地元産のぶどうにこだわり、寒暖差のあるこの地域の気候を活かして栽培される、良質なぶどうによって造られたワインは、国内外で数々の賞を受賞しています。緑に囲まれた広大な敷地は散歩するだけで気持ちいい! 整備された見学コースがあり、誰でも自由にワイン造りの工程を見学できます。そして見学後のお楽しみはショップでの試飲とお買い物。生産されているワインのほとんどを試飲できます。かなりたくさんの種類があるので、酔っ払わないよう気を付けて、様々な味わいを楽しんでみてください。

タンクが並ぶ、ワイン醸造場。


写真・文 江澤香織


小鹿田焼協同組合公式ページ「小鹿田焼の今」

http://ontayaki.support


安心院葡萄酒工房

http://www.ajimu-winery.co.jp


江澤香織

フード、クラフト、トラベル等を中心に活動するライター&エディター。ワイン大好きで、ワイナリーも多く巡っている。著書「山陰旅行 クラフト+食めぐり」(マイナビ)、「青森・函館めぐり―クラフト・建築・おいしいもの」(ダイヤモンド社)、「酔い子の旅のしおり」(マイナビ)等。