手仕事とワインで旅するニッポン vol.4 青森

各地のおいしいものやクラフトの楽しい話を聞くならこの方!

『山陰旅行 クラフト+食めぐり』などの著書を持つ人気ライター・江澤香織さんが、旅先で出会ったユニークなクラフトとその地にまつわるとっておきのワインをナビゲート。

さあ、新しい日本を発見する旅のはじまりです♪


青森県 津軽びいどろとダ・サスィーノ

新幹線のJR新青森駅から、海の方へ車を走らせ10分弱。津軽海峡フェリーの青森ターミナルからも近いところに、「北洋硝子」の工房があります。創業は1949年。かつては漁業で使用するためのガラスの浮き玉をメインに製造し、その堅牢な作りが高い評価を得ていました。やがて時代と共に浮き玉は樹脂製に変わっていきましたが、宙(ちゅう)吹きの技法を使った、職人のハンドメイドによるクオリティの高いガラス製造技術は、現在に受け継がれています。1977年より、「津軽びいどろ」と呼ばれる青森の自然をイメージしたガラスの創作が始まりました。食器を中心に、暮らしの中で使われるガラス製品を制作し、青森県の伝統工芸品に認定されています。

工房内の様子。大きな炉に竿を刺し込み、ガラスを巻きつけます。 写真入れ替え


作業現場へ一歩足を踏み入れると、その躍動感に満ちた活気ある様子に驚きます。広い工房の真ん中には大きな炉があり、炎が轟々と燃え盛っています。1500℃にもなる坩堝の中には、液状に溶けたドロドロのガラスが入っており、一般の人はとても近寄れません。たくさんの職人さんたちが手を止めることなくキビキビと動き回り、絶妙なあうんの呼吸でガラスを扱う、無駄のない動きに圧倒されます。

ガラス作りは数人のチームで行われることが多く、例えば一人が炉から液状になったガラスを、吹き竿と呼ばれる長い金属の棒で巻き取り、小さく吹いてベースを作ると、もう一人がさらにガラスを巻き取ったり吹いたりして形を作り、最後の一人が微調整を加えて竿から外す、というような流れ作業です。ガラスは熱を持ったぐにゃぐにゃの水飴のような状態ですから、常に竿を回転させていなければいけません。一人が滞ってしまうと他の全てに影響を与えるため、一定のリズムで慎重に的確な作業が行われています。耐熱ガラスをハンドメイドで成形することや、100色以上のガラスの色を揃えていることなど、この工房でしかできない多様な特殊技術を持っているため、時には無理難題の制作依頼が来ることもあるそうですが、どんな依頼でもまずは受けてみるという、職人魂を感じさせる工房です。

宙吹きをする職人さん


ここで制作されるガラスの中でも特に印象的な製品の一つに、「七里長浜」というシリーズがあります。七里長浜とは青森県の日本海側にある地名。かつてはそこの砂をガラスに混ぜて宙吹きしていたそうで、昔の技法を復刻したガラスです。独特のスモーキーな深い緑は「津軽グリーン」と呼ばれ、まるでアンティークのような質感。どこか懐かしく味わいのある風情を漂わせています。工房の隣にはショップがあり、様々なガラス製品を購入できます。

ショップには様々な色や形のガラス製品が並んでいます


「七里長浜」シリーズ。レトロなデザインに趣があります


さて、津軽にはちょっと面白いワインの造り手がいます。イタリアレストラン「オステリアエノテカ ダ・サスィーノ」の笹森通彰シェフは、料理はもちろんのこと、素材となる野菜やハーブを自分で育て、生ハムやチーズも自家製、そしてぶどう畑を耕してワインも自ら造ってしまいました。レストランや姉妹店の「ピッツェリア・ダ・サスィーノ」でいただくことができます。

ある日の前菜メニュー。シャルキュトリーは全て自家製です

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店に並んでいたワインボトル。クラシカルなラベルですが、よく見ると青森を象徴する岩木山が描かれています


日本ではあまり栽培されていないイタリアの品種・ネッビオーロを育ててワインを醸造し、「2018年ジャパン・ワインチャレンジ」では銅賞を受賞するという、快挙を成し遂げました。さらに青森といえばりんごですから、自家製シードル「弘前アポーワイン!」を醸造。こちらも「ジャパンシードルアワード2018」のテイスティング部門で二つ星を獲得しています。ピッツェリアには、このアポーワインのためにわざわざ特注したという、ユーモラスな蛇口があります。捻ればお酒が出てくる夢の蛇口です。

ワクワクせずにはいられない、アポーワインが出てくる蛇口


写真・文 江澤香織


津軽びいどろ

https://tsugaruvidro.jp

オステリアエノテカ ダ・サスィーノ

http://dasasino.com


江澤香織

フード、クラフト、トラベル等を中心に活動するライター&エディター。ワイン大好きで、ワイナリーも多く巡っている。著書「山陰旅行 クラフト+食めぐり」(マイナビ)、「青森・函館めぐり―クラフト・建築・おいしいもの」(ダイヤモンド社)、「酔い子の旅のしおり」(マイナビ)等。