勝沼らしさを継承するための挑戦の箱庭

ワインは人が造る。ブドウは人が育てる。そして素晴らしいワインを伝えるところにも人がいる。日本ワインに関わるさまざまな人たちの想いを綴ります。


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麻屋葡萄酒
工場長 河西 靖人さん 醸造責任者 清水 勇二さん


勝沼、創業大正10年。

その響きはワイン好きにとってポジティブなものなのか、ネガティブなものなのか。

日本ワインの後進と先進、勝沼はその両面のアイコンでもある。後進、つまり観光ワイン、生食ぶどうの加工品という昔ながらの感覚を持つワイン好きも少なくない。しかしこの地を訪れると、それが凝り固まったレッテルであることに気づくはずだ。

日本ワインというものを力強く前進させようという努力や意欲を強く感じられる場所。それが今の勝沼だ。

麻屋葡萄酒は古くから知られたワイナリーだけに、ともすればネガティブな視線にさらされてきたかもしれない。だが、醸造責任者の清水さんに話を伺うと、新たな時代へと漕ぎ出す愉快な冒険心にこちらまでワクワクしてくる。

「麻屋でしか造っていないもの。それをここで造る。そのためには最初からあきらめるのではなくて、まずは試してみたいんです」

うまくいくことばかりではない。所有の畑の中でも、カベルネ・ソーヴィニヨンの色合いがうまく出ずに断念し、数々の失敗も重ねた。それでも、それほど大きくはない畑には、マスカット・ベーリーAや甲州といった勝沼の主要品種のほか、勝沼の希少な固有品種アジロンダック、国際品種ながらまだ日本での栽培実績の少ないプティ・ヴェルド、サンジョヴェーゼ、テンプラニーリョ、そして山ソーヴィニヨンなど、多種多彩なブドウが試されている。

これは、組合や県と話し合いながらの実証実験という側面もある。「麻屋らしいものだけではなく、勝沼のこれからのためにもいろいろなブドウを試したい」(清水さん)と、地域貢献への意識も高い。

清水さんの挑戦は、個人的な野望ではない。工場長の河西さんにとっても、会社全体としても、挑戦は哲学である。河西さんは言う。

「あと3年で当社は100周年を迎えます。100年ただ続いたわけではなく、確かなものがあったからここまで続いてきたのでしょう。僕自身はワインのことなんて何もわからないまま先代に拾ってもらったのがスタート。他のワイナリーで勉強させてもらったり、独学でいろいろ試してみたりしながらの30年でした。門外漢だからこそ、今までにない発想でワインを造ろうという気持ちにもなりましたね」

今、麻屋の主要メンバーは60代の社長、50代の河西さん、40代の次期当主である専務、30代の清水さん、そして20代の女性ときれいに年代の違う5人。世代、嗜好などから意見がくい違うことはもちろんあるけれど、共通点は、次の勝沼のためへの挑戦。

お酒に強くない方にも喜ばれるかわいらしいスパークリングワインから、甲州のポテンシャルを生かそうと考え抜かれたアイテム、そしてマニア心をくすぐりまくるブドウと樽や醸造方法の組み合わせ(例えばブラッククイーンとアメリカンオークという意欲作)まで。マーケティングや営業的なところを越えた、いい意味での「ここまでやっちゃうの?」感が気持ちよい。考えてみれば、勝沼はワイン造りのフロンティアだった。古い場所ではなく、少しずつ日本のワイン造りをアップデートして来てくれた伝統の場所。この地があったから、日本のワイン造りは続いてきた。ある意味、勝沼自体が実験場。麻屋葡萄酒は常に、この場所に誇りを持ち、この場所であることの意味を問いながら、次の時代にワイン造りの伝統をつなげようとしている。

河西さんの世代から清水さんの世代、そしてその次の時代へ。好奇心溢れる挑戦は、続く。

(取材・文=岩瀬大二)


麻屋葡萄酒

http://www.asaya-winery.jp

〒409-1315 山梨県甲州市勝沼町等々力166

TEL: 0553-44-1022

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