てくてく日本ワイン旅 塩ノ山ワインフェス後編

おいしい日本ワインに目のないヴァインツリーマガジンの編集部員が、ワインにまつわる土地やお店へてくてくプチトラベル。今日はどこへ行くのかな?


前回に引き続き『塩ノ山ワインフェス2019』のレポートをお送りする。

かくして、僕の狭量な世界観はいとも簡単に打ち崩された

アキバコというバンドがステージに上がる。ベテラン感溢れる風貌で、山梨を中心に活動しているとのこと。それにしても、やはり、ウッドベースのインパクトは半端ではない。ウッドベース奏者のフロントマンによる「どこまでジョークでどこから本気なのか分からないMC」を挟みながら、ど迫力の演奏で会場の空気を一気に持っていく。そこでビックリするような光景を目にすることになった。

演奏が始まって盛り上がってくると、観客がワイングラス片手にステージ前に集まり始めたのだ。そして、各々好きなように踊る。繰り返しになるが、踊っているその手に持っているのはコロナでもZIMAでもなく、ワイングラスだ。踊りに合わせてグラスの中で揺れる赤ワインと白ワインが美しい。そして、その光景が極めて自然なのだ。ワインの馴染んだ、この土地のお祭りならば当然こうあるべきだ、とでも言わんばかりの説得力だ。前段で、頭を空っぽにして屋台料理とワインを楽しんでいる時に「こんなワインの楽しみ方があったのか」などと考えていたが、この光景を前にした今、一言一句違わぬ文言を反芻させながら、先程とは比べものにならない衝撃を受けることになった。かくして、僕の狭量な世界観はいとも簡単に打ち崩された。


ワインは、こんなにも自由だった

近隣の取材も兼ねた会場周辺の散歩から戻ってくると、ステージ上ではバンドが爆音でロックを演奏していた。散歩から戻る道すがら駅の近くまで聞こえていたのは、この音だろう。MAJESTIC CIRCUSというバンドのようだ。ステージ前では男性が回っているし、女性が飛び跳ねている。「うなる」という表現に相応しいベースと「かき鳴らす」という表現に相応わしいギター、そしてノること以外の一切を頭の外へ放り投げてしまった観客。そこには、ロックの原風景があった。さて、ステージ前以外の人達はというと、足元に大量のワインボトルを転がして、談笑したり席上で座ったまま音楽にノっていたりと、各々に盛り上がっていた。

僕も日常的にワインを飲む人間なのでワインは身近なお酒なのだけれど、この光景を前にした時、「ここまで自由にワインと触れあってきただろうか」と自問することになった。この文章を書いている現在、まだ自答はしていない。きっと未来永劫、自答しないだろう。答えは問う前に出てしまっているからだ。

 誤解を招く表現が続いたが、ワインの楽しみ方として何が正しくて、何が間違っているのかという議論をするつもりはない。日頃から「ワインはもっと身近なお酒なんだ」と言いながらも「ワインはこうあるべきだ」と凝り固まっていたところが、僕の中にあったのだろう。このお祭りはそれを打ち崩してくれた。ただ、それだけの話だ。レストランの白いテーブルクロスのかかったテーブルの上でコース料理と共に楽しむワインも、フランスの漁師街の立ち飲みで朝っぱらからサラミを齧りながらがぶ飲みするワインも、家で家庭料理と共に飲むワインだって良いものだ。そして、ワインの街でやるお祭りならば、これで良い。ワインは、こんなにも自由だった。

こんな風にワインを楽しんでみたい、ワインを楽しんでいる人を見てみたいと思った方は、来年の塩ノ山ワインフェスに行ってみて欲しい。ワインが生活に馴染んだ街には、きっと思いもよらない風景との出会いがある。オリンピックイヤーで令和初の塩フェスは、きっと期待を裏切らない楽しみを提供してくれるはずだ。もちろん、フェスをやっていない時でも、塩山では飲食店で地元のワインを楽しめる。週末に、連休に、信玄と温泉と日本ワイン、塩山の旅行はどうだろう。


飲んだワインのピックアップ

正直な話、飲んだワインは全部美味しかったし、全部ハッピーだったし、全部オススメだ。そう言ってしまえばそれまでのような気もするのだけれど、それだとVinetreeMAGAZINEの記事としての体を為さなくなってしまうので赤白一本ずつピックアップして紹介しよう。

甲斐ワイナリー キュベかざまメルロー2016

ひとことで言えば重厚かつシルキー。果実由来の華やかさと、樽由来と思しき複雑な香の調和がある。飲んだ時に、ひと口目から美味いと思わせるインパクトがあるのに、疲れることなく一本飲めてしまいそうなポテンシャルを感じた。注いでから少し時間が経ったあとの香も美しいので変化を楽しみたい。一番の問題は誘惑に負けてその前にグラスを空けてしまいそうなところだろう。ワインが好きな人は勿論、ワインが苦手な人にも勧め易い。ローストビーフ、豚の角煮あたりと合わせたい。

実は、前日の日本ワイン祭りに参加している時、別のワイナリーのビラを配っている方に「明日、塩フェス行くなら甲斐ワイナリーを飲んでみて」と勧められたのだ。おかげさまで良い出会いとなった。この場を借りて、お礼を言わせてもらおう。ありがとうございました。

駒園ヴィンヤードベティズダンジュ Blanc2018

ひとことで言えば甘やかだけど、複雑な味わい。辛口だけど骨格を感じる。飲み下したあとスッと切れて、ほんのちょっぴりビターな余韻。甘やかなのに爽やかで楽しい一杯。醤油の味にも合わせられる。山梨という土地柄、馬刺しにも合わせてみたい。


ザルツベルクコーヒー

https://www.facebook.com/salzberg.coffee/

塩山駅南口から徒歩数分くらいの場所にある。歩いていると突如現れるオシャレなカフェ。ポカポカ陽気だったこともありアイス・カフェオレを頼んだのだが、使われているコーヒーが悶絶するほど美味しかった。これはホットコーヒーをブラックで頼んだら立ちのぼる香も素晴しかったことだろう。座り心地の良い椅子と、オシャレだけど落ち着ける絶妙な内装、上質に響く音楽、そして壁の塗りが素敵で、ついつい長居したくなる居心地の良さだ。塩山を散歩した時には、是非。

(文:VinetreeMAGAZINE編集部 石田 写真:コンドウアヤ)


塩ノ山ワインフェス

https://shio-fes.com/

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